写真1 武漢市病院前で語る陳秋実氏 AP、2月4日2002 武漢陳IMG_00232002 武漢毎日IMG_0024
写真2 コロナウイルスを最初に伝えて医師死去を伝える毎日新聞、2月8日
2月7日、中国で1人の医師が亡くなった。李文亮さん33。武漢の医療機関勤務だった。19年12月、医師仲間とのグループ、チャットで、原因がわからない肺炎について、コロナウイルスではないか、などと書き込んだ。ところが感染の危険性を訴える李さんを中国政府が「ネットにデマを流した」として、武漢市衛生当局が呼び出し、自己批判書を書かせたうえ、「デマを流し社会秩序を乱した」という文書に署名を強いられた。李さんはメディアの取材にも応じ、摘発を受けた経過などを公表したことから、中国国内でも反響を呼んでいた。「健全な社会は“一つの声”だけになるべきではない」が李さんの信条だった。ところが1月中旬、コロナウイルスに李さん自身が感染、2月7日死去した。
中国政府はジャーナリズムへの締め付けも強めているが、フリー・ジャーナリストで、人権派弁護士である陳秋実氏の動向が2月6日以降途絶えている。陳氏は1月下旬武漢市入りし、コロナウイルスの取材を続けていた。陳氏は「私の前にはウイルスが、後ろには中国当局が迫っている」と発言していたが、病院周辺を取材中に当局者によって連行、隔離されたとみられる。また、方珷氏という市民ジャーナリストも、コロナウイルスについての状況を積極的にネット発信していたが、武漢封鎖後消息を絶った。2月9日頃、公安当局が拘束したとみられる。
そもそも武漢市で原因不明の肺炎患者が出ていると報告されたのは12月上旬だった。12月下旬には国家衛生健康委員会が専門家を武漢に派遣した。国営テレビは専門家の武漢視察を報道したが、中国指導部が感染拡大を止める「重要指示」を出したのは、1月20日だった。その間インターネットなどでこの話題に触れることは検閲の対象となった。
中国の中央政府やメディアがもっと積極的にとり組めば、全世界規模での拡大にはならなかったかもしれない。「一党独裁の弊害が拡大を招いた」と、「ニューズウイーク日本版2/18」は断定的に伝えている。武漢の市長の弁明にあるように、感染病の発生に関連した発言は上層部の許可がなければできないと定められている。
隅井孝雄(JCJ代表委員)